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江戸っ子だってねぇ?

そういえば件の社長と初めてお会いしたのは、確か羽田空港でした。

「おう、じゃぁ迎えに行っからよ」

「ありがとうございます」

電話の初印象は、気風の良い社長さんだな、ぐらいでした。

交渉事は最初が肝心です。

あのタイプは最初に舐められないようにきっちりと言い分を伝えて…色々と作戦を立てました。

羽田に着いて到着ロビーのゲートをくぐると耳がつんざける程の大声が響いてきました。

「おおおい、こっち、こっち、こっちだ!!!!!!」

私の方を見ているのではありません。

到着口から出てくる全員に向かって、大声を出しているのです。

例の社長だとすぐに分かった私は

「うげぇ!」

思わず胃液が込み上げてきました。

目と目が合って「あ・うん」の呼吸で近づいてくる社長。

「おおい、待ってたぞ!」

聞けば全便に声を出していたとか・・・。

もう、最初からこちらの負けが確定です。

車は黒のAMGです。

「いや~ベンツは良いですね!?」と私。

「う~ん、しろいからねえ」

「前は白のベンツに乗ってらっしゃったんですか?」

何言ってるのこいつは、という顔でこちらを見ながら

「いや黒」

…。

色々考えて、どうも「広い」が東京なまりで「しろい」となるらしい。

「死体が白い」は血が通ってないから白いのではなく

「額が広い」の事。

東京では「朝日新聞」が「あさしひんぶん」となる。

ところがこの社長、契約書の住所の振り仮名が

「しがしなかの」…「東中野」でした。

根っからの江戸っ子でした。

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